福田進一『悲歌集』を語る

2006年2月に津田ホールで初演した演劇的組歌曲『悲歌集』。「ギター伴奏の歌曲がほしい」という強い想いで、この作品誕生の最初のきっかけを作ったギタリスト福田進一さんに、作品についてや初演時のこと、再演にあたっての意気込みなどをうかがいました。

■ギターための新しい作品が望まれるのはもちろんだが、福田さんはなぜ「ギター伴奏の歌曲を」と思われたのだろうか。
「ギターは最初にできた伴奏楽器。ギター伴奏の歌曲は16世紀のスペインからすでに書かれていて、同じ頃にイギリスでダウランドが書いている。だけど、ギターというのは作曲家が一番大事な作品を書いてくれていたロマン派の時代に一度滅びたんですよね。シューベルトが初期にギター伴奏の歌曲を少しだけ書いている。『セレナーデ』などはまさにそう。そのシューベルトもだんだんギターに見向きもしなくなっていくんだけど、『水車小屋の娘』や『冬の旅』などを聴いてみても、シューベルトの心の中にあった音の感覚にはギターのイメージが感じられるし、僕もときどきギターで弾いている。でもそのあとがない。イギリスではその伝統がブリテンなどに受け継がれているんですよ。ぼくはずっとイギリスのギター伴奏の歌曲を演奏したかったけど、なかなか日本でイギリス歌曲を歌う人がいなかった」。

■福田さんは2004年にテノールの望月哲也さんを迎えて、ブリテンやウォルトンの歌曲を演奏している。その出会いが『悲歌集』へとつながっていく。
「望月さんも林美智子さんもとても音感がいいし、日本語の発音が明瞭。初演したときに、この作品はこの2人の歌手でないとできない、ということがわかりましたね。加えて、作曲の際に野平さんから、もう少し音の要素が欲しいがフルートはどうだろう、という提案があった。佐久間さんが加わってくれたのも大きかったですね。まさにベストメンバー」。

■初演時のプログラムに「日本歌曲の世界に、切れば血の出るような、生きた恋の情念を吹き込みたい」と書いた林望さんの詩とは。
「野平さんと2人で詩を見て、まず僕たちがこれまでに経験したことのないような濃厚な恋愛の話だったのでね(笑)。でも、林望さんの意図はわかった。日本の歌曲って"アイ・ラブ・ユー"がないでしょ。それを作りたかったんだと思う。日本人って面と向かって"愛してる"なんてそんなに言わないでしょう。でもそれだと音楽にならないからね。ドイツリートにしても外国の歌曲って、自分の思いを饒舌にしゃべる。今回の前半に歌われるイタリア古典歌曲だって"私を死なせてください"なんてすごいじゃない。そういう歌曲がいままで日本になかったから、その意味で林さんの作品は日本の新しい詩なんですよね」。

■一方、「私にとって作曲行為とは、作詩の行為を裏切ること」と書いた野平さんの音楽とは。
「『悲歌集』がすごいのは、言葉をマテリアルとして語らせて、音楽が詩に寄り過ぎずに距離を置いていること。野平さんの曲をバックグラウンドにして、ロマンティックなものが語られる。そのことで作品が立体的になっていると思う。野平さんの音楽が詩に近づいたり遠ざかったりする、その振幅が作品としてすごく面白いですね。野平さんは音色のボキャブラリーが豊富で、ギターの領域を拡大してくれる。想像力をかきたてる音がすごく多くて、ひとつひとつの音がちがう層にいる。音色の対位法。それがフルートも含めていろんな次元で出てくるんです」。

■『悲歌集』は一組の男女の別れの物語が、7曲の歌曲と4つの間奏曲で構成されている。
「第1曲『かなしいぞ』では、男の心理的な反映のようにギターが対等に旋律を弾いているんだけど、『得失』で女が出てくると音の感覚が無調性から少し調性を感じさせるようになって、アルペジオで歌を支えるようになったり、女の後ろにふっと隠れるようになったりする。そこにまたフルートが別の声域を感じさせるように出てきて、いろいろなグラデーションがあらわれる。
ギターはずっと弾きどおしで、『海風』で少しだけ休めるんだけど、ここで初めて伴奏が消えるから、男と女と笛だけになって全部歌の要素でできあがる。間では『8年の痛み』のようなテノールとギターのバラードがあったり、『想うことはいつも』で突然ジャズになったり。そういうコンセプトが非常によくできていると思う」。

■再演となれば聴衆の耳も厳しくなるし、演奏家自身もさらに自分の表現を磨き、作品の質を高めたいという思いは強い。
「初演はとても機能的なドライな楽器を使ったが、今度はもっとロマンティックな楽器を使って色を変えたいと思っているんです。野平さんは構造を聴かせる人だから、弾き手もそのクールな作風を把握して演奏しなければいけない、といつも思っているのだけど、今回は演奏もロマンティックに弾こうと思ってる。そうとうロマンティックに弾いても大丈夫だってことがわかったからね。野平さんの作品は情緒的な部分をそぎ落とした厳しい音なので、逆にそちらに寄らないで、今回はリンボウ先生の詩に寄り添おうかなあ、と思っています。現代作品は何回も弾いてみないとわからないし、これだけの作品だから、いろいろ試してよりよいものにしたいですね」。 (インタビュー協力=静岡音楽館AOI)

*静岡音楽館AOI公演= 6月1日(金)19時開演(お問合せ:TEL 054-251-2200)

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